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福岡高等裁判所 昭和42年(行コ)1号 判決

控訴人(被告) 佐世保市長

被控訴人(原告) 日立建機株式会社

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とする旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上および法律上の陳述、証拠関係は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

本件物件が被控訴人主張のとおり被控訴人が所有権を留保して各訴外会社に販売し、控訴人が本件物件につき被控訴人に対しその主張のような課税処分をしたことは当事者間に争がない。

そこでまず、本件物件が固定資産としての償却資産に該当するか否かについて検討するに、地方税法第三四一条第四号は「償却資産は土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産でその減価償却額又は減価償却費が法人税法又は所得税法の規定による所得の計算上損金又は必要な経費に算入されるもの」と規定しているところ、本件の如き割賦販売に係る物件は、売主たる被控訴人からみれば商品にすぎず、その減価償却額を法人税法上損金に算入することは出来ないが、本件物件は前認定のように一旦買主である各訴外会社に売渡され、同訴外会社にとつてその事業の用に供し得る資産となつた以上、既に商品としての状態から脱却したものであり、しかも買主たる各訴外会社においてその減価償却額を法人税法上損金に算入することが認められているのであるから、本件物件は正に前記条項にいう償却資産に該当することは明らかである。

本件の如き物件を所有し、自己の事業の用に供する者が譲渡担保として第三者にその所有権を移転し、しかも依然としてこれを自らの事業の用に供しているような場合、その物が担保権者にとつて如何なる意味を持つかにかかわりなく償却資産であることについては、何人もこれを否定すまい。被控訴人が本件物件を所有権留保のまま各訴外会社に売渡した理由が売買代金を担保するためであつたことは被控訴人が自ら主張するところであるから、被控訴人が各訴外会社に一旦本件物件を完全に売渡した上、担保のため再びその所有権のみの譲渡を受けた場合と対比すれば、本件物件を被控訴人主張のように償却資産ではなく商品にすぎないと考えることが不合理であることは容易に理解できよう。

そこで次に本件のように償却資産と認められる物件についての所有権が売主に留保されている場合、当該償却資産について、固定資産税を納付すべき者は売主、買主のいずれであるかにつき判断する。

割賦販売において代金完済まで目的物の所有権を売主に留保する理由は債権担保という経済的目的を達成するためのものであり、内部的にみれば所有権は既に買主に移転し、使用収益の権能も、すべて買主に帰属していることは否定できない。本件においてもこの点に変りはない。

従つて売主の所有権は全く形式的なものにすぎないように見えるから、固定資産税も買主の各訴外会社に賦課するのが実情に沿うかの如くである。然し売主が目的物件に対し買主の債権者から加えられた強制執行を排除することが出来、また売主による目的物件の処分は有効であるに反し、買主が目的物件を第三者に処分するも第三者は即時取得の場合を除き権利を取得できないことなどは、買主以外の第三者に対する関係においては依然として売主を以て所有者と見るべきことを示すものといえよう。

しかも地方税法第三四三条第一乃至第三項によると、固定資産税の納付義務を負う所有者とは土地、家屋のような不動産にあつては登記簿若しくは課税台帳に所有者として登記若しくは登録されている者を償却資産については課税台帳に所有者として登録されている者をいうと規定されている上に、同法には旧所得税法第三条の二のような規定が存しないことから考えて、地方税法は固定資産税を、固定資産の実質的な所有者にではなく、その所有名義人に賦課するという、所謂表見主義を採用しているものと解されるから、苟くも本件物件の所有権が、たとい債権担保の目的のためにせよ、売主である被控訴人に留保されている以上、固定資産税賦課の見地においては、被控訴人を以て償却資産である本件物件の所有者と見ることは、自動車税に関する同法第一四五条のような明文規定のないことに照らしても、当然肯定されるべきである。

被控訴人は固定資産税においても「実質課税の原則」を適用すべきであり、また固定資産税の本質は収益税であるから本件物件の稼働による収益を全く受けることのない被控訴人に対する本件課税処分は不当であると主張するが、固定資産税の賦課に当つては、所得税法、法人税法上認められた「実質課税の原則」を適用する余地のないことは右に触れたとおりであり、従つてまた被控訴人が償却資産課税台帳に正当に所有者として登録されている限り、当該資産から生ずる収益の帰属の有無を問わず、被控訴人に固定資産税を賦課すべきであることについても多言を要しない。その結果被控訴人がその主張のように二重課税を強いられる結果となるも已むを得ないところであり、これを不当とするならば所有権留保の形態によつてではなく、須く抵当権設定により代金債権確保の方途に出るべきであろう。

本件物件が昭和三九年一月一日当時佐世保市において各訴外会社の事業の用に供されていたことは当事者間に争いがないので以上説示したところにより、控訴人がこれについて被控訴人に対しその主張のような課税処分をしたことに何らの違法もないことは明らかであるから、これが取消を求める被控訴人の本訴請求は失当として棄却を免れない。

よつて被控訴人の本訴請求を認容した原判決は不当であるから取り消すこととし、民事訴訟法三八六条九六条八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤秀 亀川清 高石博良)

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